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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「そう云えば、本当に来ているんだろうね?」
と云った。
「一向音沙汰がないけれども――」
「大丈夫でしょう、ここの大使館の増永修三ってひとが、連絡してくれることになっているから。着いてからのホテルのことや何かも、父は直接そちらにたのんでいるし」
「増永って――増永謹の息子ででもあるのかい?」
佐々泰造の同時代人で、増永謹は有名な銀行家だった。
「そうよ。こっちへはもう三四年いるんじゃないかしら。大した秀才なんですって……」
素子がまたふらりと自分の室へもどって行って、まだ下手なタイプライターの音をさせはじめたとき、廊下をこっちへ近づいて来る男の靴音がした。どこかのドアのところで止るだろうと思ってきいていた靴音は、そのまま隣りも通りすぎようとしているので、伸子は、いそいで寝台からおりて、自分の室の開け放されているドアをしめようとした。そこであやうく、鉢合わせしそうに顔を合わせたのは、磯崎恭介だった。
「あら! あなただったの!」
その声で、向いの室から素子も顔を出した。
「めずらしいじゃありませんか」
磯崎がガリックへ伸子たちを訪問に来たのははじめてなのだった。