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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
話の中途から、伸子は半開きにした衣裳箪笥の扉のかげにかくれて、外出のできるなりに着かえはじめた。伸子たちは、その亡くなった子供には一度も会っていなかった。ただ、フォンテンブローにあずけられている上の子と、話にきいていただけだった。あのデュトの家で、あのおかっぱの須美子が、パリにいてさえ絶えることのないああいう姑たちへの気がねの間で、子供に死なれた様子を思うと、伸子はたえがたかった。蒼白く蝋のようにかたまった小さい死んだ赤坊の顔。とじられている瞼や鼻のまわりに、紫がかったかげがあった。黒い小さい口がすこしあいている。その顔は花に埋まっている。それは伸子が十七歳の初夏に死んだ赤坊の弟の死顔だった。消化不良と云われていた美しいその赤坊は、多計代が鏡台に向って髪を結っていた、そのうしろのほろ蚊帳のなかで、眠っているうちに息がとまっていたのだった。
「子供のことなんかでおさわがせしちゃわるいと思ったんですが、須美子がたっていうもんですから。――明日の朝、十時から葬式しますから、それだけでもお知らせして置こう、と思って」
「そりゃ、わたしには知らしてもらわなくちゃ!」