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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

これらはすべて日本語で語られているにしても、伸子が東京ではきいたことのない議論だった。そして、きのうまでのシベリア鉄道で動揺のひどい車室で過された素子と伸子との一週間にも。

「どうしました、佐々さん」

瀬川が、さっきから一言も話さずそこにいる伸子に顔をむけて云った。

「つかれましたか」

「いいえ」

「じゃあどうしました?」

「どうもしやしないけれど――早くロシア語がわかるようになりたいわ。ВОКСの建物一つみたって、あんなに面白いんですもの。――ここは、いやなものまでが面白い、不思議なところね」

「いやなものまでが面白いか……ハハハハ。全くそうかもしれない!」

同感をもって瀬川は笑い、彼の快活をとりもどした。

「これからはお互にかけちがうことが多いから、きょうは御一緒に正餐しましょう」

瀬川がそう提案した。ホテルの食堂は、階上のすべての部屋部屋と同じように緑仕上の壁を持っていた。普通の室に作られているものを、食堂にしたらしい狭さで、並んでいるテーブルには、テーブル・クローズの代りに白いザラ紙がひろげられて、粗末なナイフ、フォーク、大小のスプーンが用意されている。