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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
わたしと一緒にゆうべ乾したものが、無いの?」
「その洗濯ものが、けさまでに、一枚もなくなったんです――わたしに何の罪があるでしょう。こんなことがなくたって、わたしはちっとも仕合わせじゃあないのに……何て呪われているんだろう。何のために、わたしに大きな敷布がいるでしょう」
ニューラの頬を涙が流れた。
「奥さんは、わたしが盗んだにちがいないと思っているんです。もう電話かけました。警察犬をよんで、わたしの体じゅうを嗅がせるんです。オイ!」
最大の恐怖が、警察犬にあらわされてでもいるかのようにニューラはますます涙を流した。
「ニューラ、あなた、物干場を出るとき鍵をかけたことはたしかに思い出せるでしょう!」
「わたしが鍵をかけたって何になるでしょう。あすこに入る鍵はこの建物じゅうの住居にあるんです……警察犬が来たら、わたし、この建物じゅうの人たちを嗅がせてやるんだから――オイ!」
ニューラは涙をふきもせず濡れたほっぺたをしたまま室を出て行った。
「どうしたっていうんだろう」
ゆうべ見た夜ふけの物干場の光景や人気なかった階段の様子を思い浮べながら伸子が気味わるいという顔をして素子をかえりみた。