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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
素子をかえりみた。
「なにさ」
「わたしたちがハルビンへついたとき、もうロシア暮しに馴れるんだというわけで、『黄金の角』へとまったんです。あすこは日本語も英語も通じないのね。おひるになったんで御飯たべようとすると、いまはまだ食堂があいていません、というんで、高価いスペシアルを部屋へとったの。七時頃、夕飯をたのむと、またそういうの。あれで二日ばかり、随分へんな御飯たべたわね」
「ああ、ロシアだけでしょうからね、正餐が三時から五時だなんていう習慣のところは――」
秋山がそういうのを、瀬川が、
「そりゃ吉見さんにも似合わないぬかりかたでしたね」
と笑った。
「小説にだって正餐の時間はよく出て来るじゃないですか」
「――そこが、赤毛布の悲しさ、ですよ。あなたがただって、人知れず、似たようなことやって来たんじゃないんですか」
「わたしは大丈夫でしたよ」
妙に含蓄のある調子で瀬川が力説したので、みんな笑い出した。
「ハルビンに、またどうしてそんなに滞在されたんです」
「猿の毛皮を買わなけりゃならなかったんですもの」
「猿の毛皮?」
「外套のうらにつける」
その猿の毛皮について、伸子はいくらか悄気ていた。