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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

感じた。落付いた気分になると、モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)のアストージェンカの、あのやかましくて狭い室で暮した生活も面白く思いかえされ、伸子は、自分の室がもてるようになってから間もなく小説をかきはじめた。

朝飯がすむと、伸子は自分の部屋へかえって、くつろいだなりになって三時のアベードまでとじこもった。アベードのあと、八時の夜の茶の時間まで伸子と素子とは大公園の中を歩きまわったり、草のなかに長い間ねころがっていたりした。思いがけず往来で出会った作家のアレクサンドロフにつれられて、アレクセイ・トルストイのところを訪ねたりもした。アレクセイ・トルストイはピョートル大帝についての歴史小説をかいているところだった。マホガニー塗のグランドピアノのある客室に、すこし黄がかったピンクの軽い服を着た若づくりの夫人と十三四歳の息子がいた。トルストイの書斎にはプーシュキンとナポレオンのデス・マスクがかかっていた。タイプライターがおかれて支那の陶器の丸腰掛があった。プーシュキンのデス・マスクはともかくとして、ナポレオンのデス・マスクの趣味が伸子にわからなかった。