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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
兄とはちがう姉の女の心が、三十歳の予感にみたされた感覚で、弟の大人づいてゆく肉体と精神に関心をよせていた思いの内には、そのこころもちをとらえて名づけようとするともう消えて跡ないようなにおやかさもあった。
落胆のなかをさまようように、伸子はデーツコエ・セローの森のなかを歩きまわった。伸子のかたわらにはいつも素子がついていた。伸子の悲しみの深さで、日頃はちらかりがちな自分の感情をしんみりと集中させた素子が、伸子と一つの体になったような忠実さで、ついていた。伸子は折々びっくりして気づくのだった。こんなに素子がしてくれるのに、何時間も口をきかずにいて、ほんとにすまなかった、と。
「ごめんなさい――心配かけて」
伸子は、心からそう言って素子の腕を自分のわきへおしつけた。
「いい。いい。ぶこ。よけいなことに気をつかうもんじゃない」
「だって……いまになおるからね」
「――いいったら!」
しかし、しばらく歩いているうちに、伸子はまた素子のいることを忘れ、しかも伸子は素子の腕につかまって、やっと森かげの小みちを歩きつづけることができるのだった。
日曜日になると、朝早いうちからいつものようにデーツコエ・セローの停車場へはき出された青年男女の見学団が、ぞろぞろとパンシオン・ソモロフのヴェランダの前の通りを通って行った。