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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

三

吉之助とあと三四人の若手俳優が、すぐベルリンへ立ち、中館公一郎も別に一人でハンブルグ行きの汽船にのった。

三

歌舞伎がモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)で公演していたとき、左団次の楽屋で、伸子と素子とはさくらと光子という二人の日本語を話すロシアの若い女に紹介された。二人とも東洋語学校を出ていて、日本名をもち、さくらはたまに短歌をつくったりした。色のわるい面長な顔に黒い美しい眼と髪をもっている文学的なさくらとちがって、光子はがっしりとしたいつも昼間のような娘で、脚がわるく、ステッキをついて伸子たちのホテルの室へ遊びに来た。またそのステッキをついて毎日どこかの役所につとめてもいるのだった。

さくらや光子が、それとなしベルリンから吉之助が帰って来るのを待っているきもちが伸子によくわかった。吉之助には、歌舞伎俳優の型にはまっていない人柄の生々した力があって、それが外国人であるさくらや光子を魅していた。伸子が吉之助に快く感じるのも同じ点からであった。若い男に対して、いつもうわての態度で辛辣な素子が、

「吉之助、なかなかいいね」

と伸子に云ったことがあった。