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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
そこが問題なんです」
伸子は吉之助の話につよい関心をひかれた。同時に、良人によってそういう風に友人の間で話される妻の立場というものを、伸子は女として切ないように感じた。
素子もだまった。しかし、吉之助は、歌舞伎のことを話していたときと同じまじめな研究の調子で、
「わたしたちの結婚は、土台わたしに妻をもらったというより、早くから後家で私を育てた母の助手をもらったみたいなところがありましてね」
と云った。
「よくやってくれることは、実によくやってくれているんです。その点一言もないんですが……細君には、俳優が芸術家だってことや成長しようとしているってことはわからないし、必要なことだとも考えられないんですね、役者の生活の範囲ではうるさいつき合も、義理もきちんきちんと手おちなくやってくれて、全く後顧の憂いがないわけなんですが。これまでの役者の生活なんて、そんなことが第一義だったんですからね、無理もないが……。細君に一つもつみはないんです。けれども、わたしにはマネージャと妻はべつのものであるべきだと思えて来ているんです」
つやのいい元気な吉之助の顔の上に、沈んだ表情が浮んだ。