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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
九
そして、伸子自身にも、その暖く乾いた淋しさにそれほど苦しみながら、なぜ一日一日を耐えて見ようとして暮しているのか、わかってはいなかった。伸子は、素子が、一ヵ月前払いしているということに呪文をかけられていた。その期限が来るまでは、としらずしらず身動きを失っていて、しかもその状態を自分で心づいていないのだった。
九
その年の十二月三十一日の晩、伸子と素子とは大使館の年越しに招かれた。漁業関係の民間の人々などもよばれていて、伸子ははじめてその夜の客たちにまじって麻雀をした。伸子のわきに椅子をもって来てルールや手を教えてくれる財務官の指導で、伸子はゲームに優勝した。
「これだから、素人はこわいというのさ」
いつもきまった顔ぶれで麻雀をしているらしい大使館の人たちが、勝ったことにびっくりしている伸子をからかって笑った。
「佐々さん、白ばっくれるなんて罪なことだけはしないで下さいね」
「わたし、ほんとに今夜はじめてなのに――。ねえ」
伸子が上気した顔をふりむけて念をおすのを、素子はわざと、
「わたしはそんなこと知らないよ」
とはぐらかしてタバコをふかした。その夜中に、伸子たちは珍しい日本風の握り鮨をたべた。