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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「ニーチェヴォ」
ほんとに、何でもないという調子でナターシャは、むき出しの腕でちょいと顎をこすった。
「ラブ・ファクではほんとに勉強したいと思っているものだけが勉強しているんです。ただ、ときどき、眠いことったら! どうしたって目のあいてないことがあるんです。並んで順ぐり居睡りしているかっこうったら! オイ!」
ナターシャはたまらなさそうにふき出した。
「でも、みんないい青年たちなんです。ラブ・ファクには、全国で五万人ぐらいの若者が勉強しています。ルナチャルスキーが云っていたでしょう、『ソヴェトにとって最も必要なのは今ラブ・ファクで困難にうちかちつつ学んでいる者たちだ』って」
ナターシャは何でもない時間に、ふっと入って来ることがあった。
「かけてもいいですか」
「どうぞ」
長椅子にかけて、ナターシャは前かけのポケットからリンゴをとり出し、いい音をたててそれを丸かじりし、五分ばかり休んで出て行く。
ナターシャの勤務ぶりをつくづく眺めていて、伸子は心から、公然たる結婚、公然たる姙娠というものの本質がわかって来るように感じた。
伸子が女としてこれまで知って来た社会ではどこでも、公然たる結婚ということを結婚の儀式の手落ちない運びかたとか、さもなければ法律上の手続の完了――入籍したかしないかという点などから云っていた。