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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
こそこそしたことのきらいな生れつきの伸子は、その意味では佃と公然と結婚したのであったし、同じ意味での公然さで離婚した。
だけれども。――伸子は、ナターシャが彼女の職業と結婚、姙娠、赤坊の誕生についてもっている全く社会的な公然性を、自分の経験したみせかけばかりの公然さとくらべて見ないではいられなかった。伸子が女として生きて来た社会では、自分の意志で選んだ対手と生活しようときめた若い女に対してはその胎のなかまで詮索ごのみの目を届かせずにはおかないほどだのに、いざというとき、みずからが要求したその結婚の公然性に対して、社会は何の保障らしいものを提供しただろう。
伸子は、そういう社会に行われていて人のあやしまない虚偽におどろきを深めながら、佃と離婚しようときめたときの自分の困惑と動顛の感情を思い出した。伸子は、そのときになるまで日本の民法では女が結婚すると法律上の人格をうしなって無能力者にならなければならないという事実を知っていなかった。互にとって苦しい五年の生活のあげく、伸子は離婚するしかないときめて、その法律上の手続きを調べようと六法全書をあけてみたら、婚姻の項に、その法文を発見したのだった。