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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

と、伸子には、それが同じ女の生きてゆく一生だと思えないほどのちがいがあった。ミス・ジョーンズの上等な制服につつまれた体は背高くやせて、棒のようだった。彼女に求められているのは規律正しい行きとどいた勤務であった。それが彼女の職業なのだから。彼女の結婚だの姙娠だのという人間の女に関することは、勤務とは別の、患者のかかわりしらない、彼女だけの問題――プライヴェート・アフェアだった。ミス・ジョーンズの大切にしている婚約指環が灰色の小さな袋にはいってエプロンの下にかくされていたとおりに。文明国では、身もち看護婦の勤務などということは途轍もない笑話以外にあり得ないことだった。

ナターシャは、彼女がうけている社会の条件について、価値を知りつくしていない。そう伸子は思った。ナターシャにはどこにも過渡期の影がない。ナターシャはきっすいのソヴェト娘として育ち、生きている。ヒールのない運動靴のようなものをはいて、いくつも薬袋をのせた盆をもってドアの外を通ってゆくナターシャを伸子は枕の上から見ていた。

その日の午後おそく、やがて面会時間がきれようとするころ、伸子は思いがけない人に訪問された。