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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
同時に、あのとき、裾模様を着て第一ヴァイオリンの席につきながら束髪の頭を、あんなにうれしそうにこっくり、こっくりした伊藤香女史の特徴のある平顔を思い出し、一つの息を吸うほどの間、早く鳴り出した彼女のヴァイオリンの音を思いおこした。モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)へ来てみると、それらはすべて途方もないことだったのが、伸子にもわかるのだった。しかしまた、ヨーロッパの輝やかしく技術の練達した、社交性に磨きぬかれた音楽の世界に馴れたジンバリストにとってそういう真心にあふれ鄙びた日本音楽家とその愛好家たちの表情は、素朴に感動的だったにちがいないこともわかった。有名なピアニストやセロイストがそのころ幾人か日本へ演奏旅行に来たがその人たちは、来て、演奏して聴衆の質がよいことをほめて、帰った。日本におけるヨーロッパ音楽の発達そのものに深い関心を示したのはジンバリストだった。そのことを、いわゆる通な人々は、ジンバリストが、エルマンやハイフェッツのような世界的に第一流の演奏家でなくて、むしろ教育者風の人だから、とそのことにどこか二流というニュアンスをこめて云ってもいた。