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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

オペラはもとより、ソヴェトになってから組織されたフェル・シン・ファンスという、コンダクターなしの小管絃楽団の演奏にしろ、伸子が日本できいていたオーケストラとはくらべられない熟練をもち、音楽の音楽らしさをたたえていた。モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の音楽学校で演奏者たちが舞台の上に円くなって、第一ヴァイオリンが指揮の役もかねて演奏するフェル・シン・ファンスのモツァルトをききながら、伸子は、はじめてモツァルトの音楽の精神にふれることができたように感じた。フェル・シン・ファンスの演奏するモツァルトは、ただおのずから華麗な十八世紀の才能が流露しているばかりではなかった。そこには、意識して醜さとたたかいながら美を追求しそれを創り出そうとしている意志と理性とがあり、人生が感じられた。伸子は、モツァルトを自分のこころの世界のなかに同感した。

その演奏会があったのは一九二八年の雪のつもった日曜の午後だった。雪道をきしませてホテルへかえって来ながら伸子は最後に上野できいて来たベートーヴェンの第九シムフォニーの演奏を思いおこし、それが、どんなに不手際な幼稚なものだったかを理解した。