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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
けれども、その生活の液汁は、伸子の胸をすっとさせ、眼の裡を涼しくさせるような醗酵力はもっていなくて、或るときは熱く、あるときはつめたく、そしてときには壜がはりさけそうに苦しく流れこんで来るにしても、伸子はかたときもそれに無心におしながされることが出来なかった。中流の環境としてみれば、伸子の周囲は平穏ではなかった。けれども、波瀾そのものが、伸子にいつでもそれと一致しない自分の存在についてつよく感じさせるたちのことばかりだった。その苦しさのぎりぎりのようなところで、伸子はモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)へ来たのであった。
息苦しい存在の壜のようなものが熱量のたかいモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)生活でとけ去って、観ることのこんなにもうれしい自分、感じることがこんなにも愉しい自分、知ってゆくことの面白さで子供っぽくさえなっている自分がむき出しになっていることを発見したとき、伸子は自分とモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)とを、抱きしめた。モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)でのすべての印象は、日本の生活でそうであったようにせまい漏斗で伸子の内面にばかりたまりこまなかった。