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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
伸子の主観でつつまれるにしては、事件にしろ見聞にしろその規模が壮大であり、複雑であり、それ自身としての真面目な必然と意義をもっていた。旧さと新しさが異様に交りあったモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)生活の歴史的な立体性は、伸子の全知識と感覚をめざましく活動させ、なお、もっともっとと、生きる感興を誘い出しているのであった。そういう熱中で、おのずと素子に迫ってゆく伸子を、素子は、絶えず自分から一定の距離に置こうとしているようだった。
新聞の場合ばかりでなかった。
モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)へついて三四日したとき、どうかして素子の外套のカラーボタンがとれて失くなってしまった。素子は、
「ぶこちゃん、見物がてら買っといでよ」
と云った。
「あらァ、それは無理よ」
伸子は冗談のように甘えて、首をふった。
「ボタンなんて言葉、ベルリッツの本に出ていなかったわ」
「そのために字引もって来たんじゃないか。ひいて御覧」
そう云われるといちごんもなくて和露の字引をひいて、伸子はその字を見つけ出した。
「あったろう?」
「あったわ」
「それで、いいじゃないか。