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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

「君たち、いま金のもちあわせがあるかい?」

おもに素子に向って云った。

「――たいしてもっちゃいないけど……なにさ」

「君たちに、芝居の切符を買わせようと思うんだ。――どうせ観る気でしょう」

川瀬はそこでウンテル・デン・リンデン街のわきにあるプレイ・ガイドのような店のことをはなし、伸子たちがあらかじめ順序だてて、ベルリンにいる間、見たりきいたりしたいものの切符を買っておく方が便利だろうとすすめたのだった。

「なるほどね、それもわるくないかもしれない」

万更でもなさそうな素子の返事を、しっかりつかまえるまじめな口調で川瀬は、

「こうみえてても、われわれはいそがしいんでね」

と云った。

「君たちにはせいぜい、いろいろ見ておいて貰いたいんだけれど、とてもくっついて歩いていられないんだ。おたがいに負担にならない方法がいいと思うんだ」

「――わたしたちは、はじめからなにも君たちの荷厄介になろうなんて気をもってやしないよ」

「そりゃよくわかっているさ、だからね――妙案だろう?」

川瀬はいくらか口をとがらして、大きな眼玉をなおつき出すように素子を見た。その拍子に、まじめくさっている川瀬の下瞼のあたりをちらりと掠めた笑いのかげがあった。