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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
それは、伸子たちがいままではいているような、本当の絹ではあるが白っぽくだらけた肌色ではなく、すっきりしたオークルで、人絹のうすでな靴下だった。ベルリンの大きな百貨店ウェルトハイムの婦人靴下売場にはモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)から来た伸子をびっくりさせるほどいく種類もの靴下があった。それを買う婦人のために、売子は内部から電燈にてらされているガラスの脚型にくつ下をはかせて、ほつれのあるなしを調べわたしていた。
街路をぬらして降っている雨と、女ばかりにくつろいだ室のなかの光景と、それはベルリンでのめずらしい一晩だった。
伸子は、素子からはなれてテーブルにふかくもたれ、艷やかな湯あがりの顔を頬杖にささえながら、素子のこまかい針の動きを見ていたが、
「あなた、ワンピース着て見る気はない?」
ゆっくり自分の考えていることのなかから話す声の調子でいった。いま素子がほつれを直しているのはウィーンで買った、淡いライラック色のスーツの上着だった。
「そりゃ着たっていいけど、似合うのがないじゃないか」
うつむいて手を動かしながら素子が返事した。
「――スーツって、そんなに着心地がいいものかしら?」