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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
金銭について警戒する多計代の心には、品のいい肉桂色の絹レースの服をつけ、すらりと美しい脚でパリの人目さえひきつけている小枝の姿態が浮ぶにちがいなかった。金の話をしに、和一郎だけが一人で来たということも、小枝に対する多計代の感情をこじらせた。小枝はいつも陰で和一郎をつっついているという風に。
「しまいには、詐欺も同じだなんて怒り出してさ……誰がお前……全く泣くにも泣けない気持だった――死ぬのにしょってゆけるものじゃなし、いずれはみんなあのひとのものになるにきまったものじゃないか――それも、どれほどに沢山あるというわけでもあるまいし……」
二時間以上も、云いあっていた揚句、和一郎は、おそろしい顔つきになって多計代を睨みすえていたと思ったら、いきなり立ちあがってそこに在った椅子をふりあげたのだそうだった。
小枝との結婚を多計代が承知しようとしなかったとき、和一郎は、茶碗をぶつけた。
おろおろして、それでも自分の云い分をまもって、つくろった多計代の話をきいているうちに、和一郎の乱暴なふるまいをとがめながら、衝動的な憎悪につかまれた彼の激情が伸子にわかって来るようだった。