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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

銀鼠色のわなてんのフェルト草履をはいている素足のつまさきをせわしく動かしながら、多計代は興奮の眼くばりで云った。

「親は一つも理窟をいうな。金だけは黙って出せっていうのが、伸ちゃんの何とか主義っていうのかもしれないがね。わたしは御免だ」

例の多計代の、挑みかかる言葉つきだった。伸子はそれにひっかかるまいと努力しながら、それでもつい、

「勘ちがい、しないでよ、お母様!」

ほとばしるように云った。

「わたしがいつ、一フランだって下さいって云ったことがあって? 和一郎の話じゃありませんか」

ほんとに、旅費なんか出してもらっていなくてよかった。伸子は激しく考えた。

きっとこんなこともあろうと、伸子は買物のために泰造からあずかる僅かの金でも、計算書にして収支を明白にして来た。パリには素子もいる。素子は、自分たちの暮しと、佐々の一家の生活と、この一ヵ月は二つの間をかけもっている伸子に、きびしいけじめを要求した。素子ははっきりした理由もなしに佐々のうちのものと食事によばれることさえよろこばなかった。

「和一郎の問題で、伸子も一緒に話せっておっしゃるならわかるけれど――そんな、……まるでわたしがお金でもゆすっているみたいな!」