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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

つや子のいまの後姿が、パリへ来てまで、家庭のごたつきに浮きつ沈みつ、その場その場の不和や和解で暮している佐々のうちの気分を、まざまざと反映している。伸子はその場の情景の上に字で書きしるされているように、それを感じるのだった。一家でパリへ来て、アパルトマンをかりて、通いの手つだいをつかって暮している。それだけの条件から云えば、それは国際的な中流の上の生活様式だった。けれども、生活気分は、何と、フランスのいわゆる中流家庭の生活感情とちがうだろう。フランスの中流人たちは、社交というものが中流階級の存在のための動脈、共通な利害の結びめであると理解して、伝統的に神経をくばるように鍛えられている。パリの中流層の人たちが、機会をのがさぬ愛嬌と機敏な打算とでブルジョア社会のより太い脈管へ、よりつよい綱へと一家をつなぐために緊張しているのにくらべると、パリでの泰造と多計代、特に多計代の生活気分はレジオン・ド・ノールをつけたどこかの酋長の妻のようにおおまかで、夫婦は、どちらも、佐々第二世である若い和一郎夫妻を、パリで開かれている自分たちの交際圏へ引き合わせ、何かと一家の将来のために計っておくというようなせせこましいことはしなかった。