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さんまいつづき

三枚続

泉 鏡花

「大阪毎日新聞」1900(明治33)年8月9日~9月27日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 63,572 字 · 124 页

青空文庫

愛吉は紋床で謂った、鴨川はその敵で親の仇とも思う怨がある、それは渠がかねて愛顧を蒙る勝山の女お夏というのに就いたことである。

今より五日ばかりの前、振袖立矢の字、児髷、高島田、夜会結などいう此家に出入の弟子達とは太く趣の異なった、銀杏返の飾らないのが、中形の浴衣に繻子の帯、二枚裏の雪駄穿、紫の風呂敷包、清書を入れたのを小さく結んで、これをまくり手にした透通るように色の白い二の腕にかけて、その手に日傘をさした下町の女風、服装より容色の目立つのが一人、馬車新道へ入って来たことがあろう、それがお夏であった。

お夏は人形町通の裏町から出て、その日、日本橋で鉄道馬車に乗って上野で下りたが、山下、坂本通は人足繁く、日蔭はなし、停車場居廻の車夫の目も煩いので、根岸へ行くのに道を黒門に取って、公園を横切った。

あとさき路は歩いたり、中の馬車も人の出入、半月ばかりの旱続きで熱けた砂を装ったような東京の市街の一面に、一条足跡を印して過ったから、砂は浴びる、埃はかかる、汗にはなる、分けて足のうらのざらざらするのが堪難い、生来の潔癖、茂の動く涼しい風にも眉を顰めて歩を移すと、博物館の此方、時事新報の大看板のある樹立の下に、吹上げの井戸があって、樋の口から溢れる水があたかも水晶を手繰るよう。