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ちからもち

力餅

島崎 藤村

「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页

青空文庫

そんなら、自分の見てきた地方のことを一つ聞いてもらおうと、川上へ行ってきたかわずが言い出しました。信濃の一部だけ見て、これが山国全体の姿だと思われてもこまる。それには、どうしても千曲川の上流について、南佐久の地方へはいってみないとわからないというのが、このかわずでした。

川上を見てきたかわずはまず岩村田あたりから始めました。あの町の大字金の手というところのかどに石があります。その石が、これより南、甲州街道と旅人に教えています。

その道について南へさして行くと、臼田の町へ出る。臼田に稲荷山公園というところがあって、公園前の橋のたもとあたりから望んだ千曲川のながめは実にいい。あれから八つが岳山脈のふもとへかけて、南佐久の谷が目の前にひらけています。千曲川はその谷を流れる大河で、岸に住む人たちの風俗やことばのなまりも川下とはいくらか違うようです。岸をさかのぼるにつれて、馬流あたりからは、さすがの大河も谿流の勢いに変るのですが、川の中心が右岸のほうへひどくかしいでいるために、左岸には川底があらわれ、砂は盛り上がり、川上から押し流された大石が埋まって、ところどころにかわやなぎ、あしのくさむらなどが茂っています。