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ちからもち
力餅
島崎 藤村
「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页
そうなると、男山、金峯山、女山、甲武信が岳などの山々が残りなくあらわれて、遠くその間を流れるのが千曲川の源なのです。かすかに見えるのが、それが山里の中の山里ともいうべき川上の村落です。
このかわずが見てきたのは高原の秋でした。そこいらには木立ちもところどころ。枝という枝はいずれも南向きに延びて、冬季に吹く風のはげしさも思いやられたとか。白かばは多く落葉して高く空に突っ立ち、細葉のやなぎはうずくまるように低くかくれています。秋の光を送る風がさわがしく吹きわたると、草は黄な波を打って、かしわの葉もうらがえって見えます。ここかしこに日のあたった大石は、秋のさびしさを語っているのです。
「ありしおで」の葉をたれ、弘法菜の花をもつのもそこです。「かしばみ」の実の道に落ちこぼれているのもそこです。
そこにはまた、野の鳥も住みかくれています。ささの葉のかげに巣を造るひばりは、老いて春先ほどの勢いがありません。うずらは物音に驚いたように、ときどき草の中から飛び立つやつですが、「ヒュヒュ、ヒュヒュ」と鳴くその声からして野の鳥らしい。見れば、ぶかっこうな羽をひろげて、舞いあがろうとして、やがてぱったり落ちるように草の中へ引きかくれます。