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ちからもち
力餅
島崎 藤村
「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页
数衛は油じみた髪ゆいの道具をさげてはよくわが家へかよってきまして、父がまだ散髪にならない時分はその髪をゆったり、そのヒゲをそったりしたことを覚えています。そんなきたない髪ゆいの子に育てられたと言って、わたしは村の人たちから、からかわれました。「やあ、数衛の子」なぞと言ってよくからかわれたものです。
このわたしが兄たちに連れられて郷里を出る時、ちいさい時分から自分を抱いたりおぶったりしてくれたお雛の家へも、もう遊びに行かれないかと思いまして、お別れを告げるつもりもなく遊びに行く気になりました。わたしはそっと家を抜け、お雛の家をさして歩いてまいりました。村の裏側づたいに、お墓参りに行く道のほうから、なるべく知った人に会わない竹やぶのわきのたんぼ中の細い道なぞを通りまして、こっそりとかくれるようにして出かけて行きました。というのは、お雛の家へ遊びに行くところをだれかに見つけられたら、また人にからかわれると思うからでした。
数衛の家は村の中でもずっと坂の下のほうで、水車小屋に近いところにありました。一すじの水の流れが音を立てて家の前の石がきの間に走ってきているようなところです。