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ちからもち
力餅
島崎 藤村
「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页
八 なると申すか、ならぬと申すか
九 恵那山のふもと
八 なると申すか、ならぬと申すか
わたしの生まれた村はかきの木の里です。そろそろ梅の花のかおってくる節分の日に、わたしのいなかではかきの木を打つということをやります。二人の男がかきの木の下へ行きます。一人は手にした棒で木の幹をぶんなぐりながら、
「なると申すか、ならぬと申すか。」
と言って責めます。その時、もう一人のほうがかきの木にかわって、
「なります、なります。」
と答えるのです。強く打たれれば打たれるほど、その年のかきのみのりがいいとは、幼い時分に村の人から話しきかされたことでした。ふるさとなつかしいわたしの胸には、こんな古いならわしまでが浮かんできました。
九 恵那山のふもと
長野県、西筑摩郡、神坂村――そこが母たちの住んでいたところです。村はずれの新茶屋に芭蕉翁の句塚がありまして、信濃と美濃の国境にあたることを旅人に教えるところです。道ばたの畑の間には赤みがかったむらさき色の桑の実が熟し、秋風の吹くころには山ぐりの落ちる木曾路の入口にあたるところです。
恵那山は村から近く望まれる山です。今でこそ、木曾も昔の木曾ではなく、中央線の鉄道が敷かれるころから谷あいも開けてずっと明るくなりましたが、わたしが子供の時分にはもっと樹木は深く、昼でも暗いくらいのところがありました。