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ちからもち

力餅

島崎 藤村

「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页

青空文庫

一一 白い犬の話

木曾の麻衣とて、わたしの郷里では古くから麻を植え、布を織り、産業としましたから、やがてそれが土地の名ともなったのでしたろう。

一一 白い犬の話

恵那山の裏山つづきに御坂峠というところがあります。木曾の御坂とはその峠のことです。

山と山との連なりつづいた間に古い道の残っているところで、わたしの村の裏側からよく見えます。御坂越えといいまして、ずっと昔の旅人は尾根づたいにそんな高い峠を越したのです。

古い歴史の物語に、あの日本武尊が地方平定の重い任務を帯びたもうた時、ご一行は二隊にわかれまして、鑑察の役目をうけたまわりました吉備武彦は越後へむかい、尊は道を分けて信濃に進み入られたとしてあります。そのお帰り道に、尊のお通りになったのが木曾の御坂でした。

なんにしても、わたしたちの山国は谷多く、林も深く、がけにはくまざさおい茂り新しい道ができて樹木や岩石の切り開かれない時分には山ひる、ぶよ、そのほか無数のやぶ蚊なぞになやまされたくらいのところです。大昔の山越しはどんなでしたろう。人はつえにすがっても登りがたく、馬はくつわをかみしめても進みかねたということです。