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ちからもち

力餅

島崎 藤村

「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页

青空文庫

先生が頭を持ち上げたのもそのころからです。

当時の函館あたりはまだ「蝦夷地」と言いまして、開けたばかりのさみしいところでしたが、先生は六年もそのさみしいところにしんぼうして、病院や医学所を建てたり、薬草園を開いたり、松杉その他の木の苗を内地から移し植えさせたりしました。その「蝦夷地」に緬羊や牛を飼い、養蚕の業につくものができたのも、先生の監督ではじめたことなのです。疏水の工事を起して久根別川というところから舟を函館へ通すようにしたのも先生でした。

まあ、何もかも新規に始める時というものは、ほねのおれるかわりにどんなにかはりあいのあるものでしょう。どっちを向いても開拓、開拓で、先生のような人の力を待っているものばかりでした。日本のお国もずっと北の果てのほうはロシアざかいですから、その時分からやかましかったところ。先生はカラフトの見まわりを命ぜられまして、北緯四十八度にあたるところをきわめ、一冬を極寒の地に送り、それから島々を見めぐって函館に帰ったこともあります。

栗本先生の長い生涯にとって、この函館時代の六年はいいしたくの時でありましたろう。わたしが皆さんにお話ししたいと思うのも、そこですよ。