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ちからもち

力餅

島崎 藤村

「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页

青空文庫

第五章 宮城野

一 宮城野

土ほどなくなった人を思い出させるものもないかわりに、またそれほどいろいろなものの生まれてくる場所もありません。

第五章 宮城野

一 宮城野

仙台に東北学院という学校があります。その学校へわたしは年若な一教師として行くことになりました。母もそのころは東京でしたが、その母を都に残し、お友だちにも別れまして、東京上野の停車場からひとり東北の空に向かいました。もっとも、その時はまったく初めての東北の旅でもありません。それより以前にも一度、汽車で白河を越し、秋草のさきみだれているのを車の窓からながめて、行って、仙台よりも先の一の関というところにある知り人をたずねたこともあります。しかし、こんどはただの旅でもなく、一教師として出かけて行って、めずらしい仙台の地を踏んだので、にわかに東京のほうの空も遠くなったように思われました。

仙台というところは城下町として発達したところです。ここには名高い城跡がありますし、古い士族屋敷の町がありますし、むかしは市が立ったろうかと思われるような辻があります。ここは東北のほうの教育の中心地です。ここにはいろいろな教育機関というものがあって、若い男女の学生たちが集まってきていました。