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ちからもち
力餅
島崎 藤村
「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页
母もそのひとりであったのです。留守宅には母よりもっとからだの弱いものもいましたが、一番きれい好きで、働くことも好きで、ふだんから食べ物にも気をつけるほうの母が、そんな病気にかかりました。行って見ますと、おまわりさんは門口に立っています。そこいらは消毒のお薬でぷんぷんにおっています。母は本所の病院のほうへ送られて、そこでなくなったあとでした。
よくよくわたしも両親には縁の薄かったほうです。幼少のころに親たちのひざもとを離れたきり、父の臨終にはそのまくらもとにもいませんでしたし、ずっと後になって母とは二年ほどいっしょに東京で暮らしてみる月日もありましたが、そのころのわたしにはまた母を養うだけの十分な力もありませんでした。せめて仙台へは母だけでも引き取り、小さな家でも借りて、二人で暮らそうと思いまして、その日の来るのを楽しみにしていたところへ、こんな病気の知らせです。とうとう、わたしは母の死に目にも会わずじまいでした。
本所の病院のほうへ行って母の遺骨を引き取るから、砂村というところにあった火葬場まで見送った暗い晩のことも忘れられません。なにしろ病気が病気で、留守宅に残るものは交通遮断の時ですから、砂村への見送りもわたし一人でした。