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ちからもち

力餅

島崎 藤村

「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页

青空文庫

それから、おれが青いふのはいった小さな羽を落としてやると、お前さまはあの木の下でおれの羽を拾うのを楽しみにしておいでなすった。」

わたしの郷里では、ていねいに人のことを呼ぶには「お前さま」、自分のことはだれに向かっても「おれ」です。そこで、かしどりはことばをつづけて、次のように語りました。「ごらんのとおり、先年の大火で村も焼けました。お前さまの生まれた古い屋敷のあとも、今は桑畑です。あの桑畑からは、たった三つだけ焼け残った物が出てきました。一つは古い鏡、一つはお前さまがおとうさまの石の印、もう一つはおとうさまの部屋の前にあったぼたんの根から吹き出した芽。ほんとに――あの古い鏡も大やけどサ。そんなわけで、さっそく普請のできた家もあり、かりの住まいにがまんしているものもありますよ。なんにしてもあの大火のあとですからね。あれから村も変りました。まあ、今だにむかしを恋しがって、ふるさとのふところにすがりついている手あいもないではありませんが、しかしもうそんな時ではなくなりました。お乳の出もしないちぶさをしゃぶっているようなことはだめで、早く気のついた村の者は皆この焼け跡からたち上がろうとしています。