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ちからもち

力餅

島崎 藤村

「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页

青空文庫

しかし、姉の家の薬をこれまでにひろめ、先祖伝来のしごとを築き上げたのは、何代もかかった行商の力によることが多いのです。

高瀬の薬方が、昔はその主人と主従の間がらで、部下の士族であったことは前にもお話ししたとおりですが、そういう人たちが番頭さんと呼ばれる時世になってからも、毎年手を分けて諸国へ行商に出ました。西は美濃、尾張、伊勢から、北は越後の方面へかけ、ふろしき包みにした薬の箱をしょい、日に焼け、雨にぬれることをもいとわずに、遠い道を往復し、去年の薬の残ったところへは引き替えに新規の薬の袋を置いてくるほどにして、高瀬の薬をひろめて歩いたのも、そういう人たちでした。わたしが姉の家をたずねたころはおいおい薬方も変り、あるものは年とって身を退き、あるものは若手に代をゆずったと聞きましたが、それでも一人のいい番頭さんが残って高瀬の兄を助けながら、製薬いっさいのことをきりまわしていました。

姉の家の店座敷から奥のほうへ通う中央の広いへやは薬方の仕事場にあててあって、静かな日の光が障子にさしてきているところです。そこには薬種を刻むもの、袋を造るもの、丸薬の数を量り入れるもの、それぞれの受け持ちがあり、中には薬の紙を折ることを内職にして古い士族屋敷の町のほうからかよってくる老人もありまして、みんな秋の行商のしたくにいそがし