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ちからもち
力餅
島崎 藤村
「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页
八 夕顔よりかんぴょうへ
そのへんから裏山へかけては、なだらかな傾斜になっていましたから、わたしも細い道を楽しみにして、枝のたれさがった夏なしのかげ、ぶどうだなのもと、またゆり畑の間などを歩き回り、年とった百姓を相手に木曾福島の風俗、祭の夜のにぎやかさ、耕作の上のことなどを語りながらいなかのふぜいを味わいました。
旧暦七月十五夜には月がことに明るくこの谷間にさし入りました。姉の家のものは、甥や姪から、年不相応に額ぎわのはげた番頭さんまで奥座敷に集まりまして、あかりを遠く置き、縁側に出て、思い思いの夜ばなしを持ち寄りました。木曾福島もせまいところで、わたしが吉村のむすこさんを連れながら東京から来たと言えば、そんないささかな人の動きまでが、一晩じゅうに町へ知れ渡っているくらいのところです。ほんとにせきばらい一つうっかりできないところだ、そんな話の出るのもその縁側でした。姉のもとへかよってくる女の髪結いさんは唖ながらに、それはかしこいもので、姉はその人の身ぶり手まねを通して、町のできごとを手に取るように知ることができる、そんな話も出ましたっけ。
八 夕顔よりかんぴょうへ
青い夕顔も長く大きく生りました。