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ちからもち

力餅

島崎 藤村

「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页

青空文庫

第七章 浅間のふもと

一 浅間のふもと

父は神坂村のほうからこの木曾福島の町へもよく来たらしい。この町には父が歌の友だちという人もあったらしい。わたしは姉の家で、父を知っているという一人の老人にも会いました。

どれ、姉の家のことはこのくらいにとどめて、もっとほかのお話に移りましょう。姉も元気な時でしたから何よりわたしにはうれしかったのです。そういえば、わたしたちが広い炉ばたで食事するごとに、姉の家に使われている下女ははえを追い通しでした。それほど木曾ははえの多いところです。深い山の中で、しかも馬の産地であるくらいですから、はえばかりでなく、ぶよもいます。高瀬の兄はじめ、家の人たちに礼を述べて、わたしがこの町を辞した朝は秋風の身にしみるようなころでしたが、道ばたに隠れているはえが来て旅の着物にまで取りつきました。

第七章 浅間のふもと

一 浅間のふもと

木曾福島の姉の家から東京のほうへ帰って行く時のことでした。わたしはその途中で信州小諸に木村先生の住むことを思い出しました。木村先生はわたしの少年時代に、東京神田の共立学舎で語学を教わった古い教師でありますし、その後わたしが芝白金の明治学院へかよったころにも先生は近くの高輪に住んでいたものですから、よくおたずねしたことがありました。