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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

岩五郎の持っている苫舟を、堀の茶漬屋のお客に、貸したっていうのが、何と、指を繰ってみると、ちょうど堀留にあの大い騒ぎが起った前の晩です」

「大金をとったのか。貸しちんは」

「何でも、茶漬屋のおかみが、仲へはいっての相談だというこってす」

「木更津船は、大川へ、何度はいる?」

「さ、親船は、月にいちどぐらいなもんでしょうが」

「分っているだろうな、岩五郎の木更津の家は」

「網元もやっているし、かくれもねえ船持です」

「まず、あしはついたな」

「おめでとうございます」

「ばかを申せ、これからだ。……が、他言は無用だぞ」

「仰っしゃるまでもございません」

「褒美に、吉原へ連れて行ってやろう」

「ごじょうだんを。……旦那も一しょに、うちの女房に、追ン出されますぜ」

「いや、今夜一ばん、貴様は借りものだ。女房にはおれから渡りをつけておく」

「ほんとですかい」

「ただし、舟だぞ。――酒に、火桶、座ぶとんなど、入れておけ」

左右太は、階下へ降りて、源吉の女房と、何か、笑い声で交渉していた。諒解がついたとみえ、

「源吉、おゆるしが出たぞ」

笑いながら、軒端を出た。

――と。出あいがしらに、

「左右太さま。