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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

刑部の家へ」

「そればかりは、どうぞごかんべんを」

奉行所以上に、刑部といえば、恐れるのだった。

左右太は、笑って、

「よしよし。……その代りに、これから折々、この家を、使わしてもらおう。今のことは、他言するなよ」

朝めしを喰べ、左右太と源吉は、枕をかりて一寝みした。

いつも、この家から、刑部の家へ、通いつけている駕籠屋というのを頼んでもらい、左右太は、源吉とお次へ、

「舟で、さきへ帰るがいい。おれは、思うところをぶらついて、いつか、楓河岸の二階へ帰るから」

と、支度をした。

何日か帰る――。お次は、心ぼそくなった。

「何か、お奉行所の方へ、おことづけはありませんか」

物蔭で、そっというと、左右太は、いつのまにか認めておいた密封のものを、お次の手にあずけて、

「市川義平太か、小林勘蔵か、御両所のうち、どちらへか、しかと、手渡してくれ」

と頼んで別れた。

駕籠は、上野の山裏の方へ、いそいでいた。

鶯谷の御隠殿ちかくへ来た。

「かご屋。まだ遠くか」

「いえ。もう、このすぐ先の、だらだら坂の中途です」

「じゃあ、降ろしてくれ」

「いいんですか、旦那」

「その家の門さえ分ればよい」