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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

藪田助八は、お燕の采女をうしろに連れ、寛永寺の正門を、ずっと、通った。

そして、輪王寺の宮の、別院を訪れ、

「大内不伝どのに、お会い申したい」

と、だまって、寺役人に、刺を通じた。刺とは、名刺のことである。

「おられませぬ。ただ今、お出まし中でござる」

と、いう返辞。

どこへ? ――とは訊かず、藪八は、

「しからば、おそれいるが、宮家ご直々に、ちと、御内談申しあげたい儀がおざる。お取次ぎ賜りたい」

と、いった。

寺役人は、おどろいたような眼で、もう一度、かれの名刺を読み直した。

江戸城お庭番、吹上お茶屋付、藪田助八とある。

執事が出て来た。そして、いんぎんに、宮家にはあいにくと御病中なので――と、さすがに、面接をわびて、

「何事の御用向きか、もし執事の私でおさしつかえなくば、お取次ぎ仕りますが」

と、自身、客殿にみちびいた。

藪八は、采女を別室に待たせて、かなり長い間、執事と懇談していた。そしてさいごに、執事は、宮家の内意を得るために、奥まった所へ立ってゆき、程なく、座にもどって来て、確答した。

「大内不伝の素行については、平常、おもしろからぬ風評もあり、旁、仰せのような事実があれば、御遠慮なく、お取糺しのこと、何ら、さしつかえなしとのおことばにござります」