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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

(元兇を捕り抑える必要がある。実はまだ、元兇を揚げていない。元兇を糺すなく、末端末梢の鼠輩をからげて、天下の評定所を煩わしても、火災の火元に水をかけずに、火光の火影に水をそそいで、消火の大事をすましたとするようなものである。――願わくは、越前守が、ここ数日間に、その元兇を召捕って、積年の罪府の首魁をあきらかにいたすまで、評定所開きはお待ちしていただきたい)

以上の、主旨であった。

前例にないことだ。評定所規定にもまったくない。老中、諸奉行は、極秘の会議をつづけた。

その間にはまた、越前守をうたがい、彼の個人攻撃や誹謗が、公然と、あるいは隠然と、さまざまにいわれた。

(おそらく、その間に、越前守は、自己の立場を守るため、あらゆる虚構の工作を、あわててやっているのだろう)

(白洲と、職能を、彼は私事に、紊乱させてかえりみない)

(越前守一人のため、町奉行の権威は、地に堕ちた。かれは今や瓦版の人気者だ)

(おどけた町奉行も出たものよ)

中には、お袖と彼との遠い私行上のことに尾ヒレをつけ、聞くにたえない悪口のたねにする者もある。

それが皆、位置あり、権威あり、相当、要路の人物といわれる者たちの声だから世の中はどこも同じ世の中、同じ人間と世間にすぎないことがわかる。