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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

08 一九四一年(昭和十六年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 230,599 字 · 458 页

青空文庫

家のこと、私はなかなか心をきめないでしょう? ひどい愚図つきかたなのよ、ねえ。寸刻の休みなく愚図ついているのだから、疲れもしようというものです。昨夜、ひどい雨が宵のくち降って、十一時すぎにははれました。私はお恭ちゃんをつれて林町からかえって来ました。開成山のおけさというばあさま、(孫の口説かいたでしょう? あのばっぱちゃんよ)が急に夜行でかえるというのでね、もう年だからといそいで土産に下駄を気ばってやって、ザンザ降りの中を持って行ってやったの。一人ではさすがにいやで、二人づれで。

すっかり濡れた足袋をはいてかえって、ゆたんぷ入れていくらか暖めて眠りかけながら又候あれこれ御思案中をやっていたらばね、私ったら狡いわねえ、ふっとこういうことを思いついたの。私たちの家としてここを愛着していて、動坂だって、といかにも腹にすえかねるところがあるわけなのですが、あれこれ思っているうちに、縁側のことを考えました。この家には二階には縁側がないし、下もぬれ縁だけなのよ。縁側というものは気のくつろぐもので、縁側に坐布団出して、庭というものでも眺めたらあなたも私もどんなにのびのびするでしょう。