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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

08 一九四一年(昭和十六年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 230,599 字 · 458 页

青空文庫

ほめて苦笑されるけれど「ロバとキリンの間を往来している存在に対してのみ」は適評ね。

これらのことにつれて沁々と思うことは、武者さんの例にしてもね、私たちは、本当の明るさに到達するだけの努力を怠りがちなように、本当の面白さに到達するだけの精励をなかなかしないのね。「尤も」ということは低いレベルでは常識一般への妥協にすぎないし、それより一寸さきだと道学流ですし、それより先は「哲学的」で、もっと人生の味を求めるものは、それよりもっと高い精神の美に達しなくてはならないけれど、これ迄の文学というものを考えると、尤ものつまらなさにせいぜい「哲学的」レベルで抗しているのね。トルストイ、バルザック、スタンダール。日本の小説はせいぜい「尤も」に抗そうと試みているという工合。文学に新しい面白さがいるのだわ、そしてそれを得ることは大した大したことなのね。これ迄の文学の観念から溢れ溢れなければならないでしょう。しかし果して何人の芸術家が自分の輪廓を自分でのりこすでしょう。

作家の心理(作品のかくれたバネとなっている)というものは、この頃実に微妙になって来ていて、ひねくれているわ。