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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
08 一九四一年(昭和十六年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 230,599 字 · 458 页
いい塩梅に、慢性でないし、ほかにくっついたものがないし、ただお酒が入っていて、注射がきいたかどうだか分らず、そうだったら迚も痛い目を見るでしょうが、ともかく命に別状はないでしょう。けれども私は恐慌よ、というのはね、一つの家族の中に盲腸の出る条件は共通なので大抵つづけるのよ。父の亡くなった年国男(夏)私(十二月)。お母さんも十六日にはすこし張ると云っていらして私はやいやい云って横におならせしましたが、もうどんどんバスにおのりになるし。
こうやって今朝は平静ですが、ゆうべ電話口での声は一寸おきかせしたかったわ。ロバにこういう声もあるというようなところでした。だって前夜一時ごろまで飲み歩いて、と一緒にいた人がかえって話していたしね。お酒の入っている盲腸の悪化の迅さは天下一品です。戸台さんがそうでした。そのとき徹夜して手術の番をしていて、宮川さんというお医者様からそのことききました。倍のスピードで悪化するって。だからキーキー声も出たわけよ。広島で盲腸の手おくれで命をなくしてなんかいられませんからね。しかし、達ちゃんへの手紙で余りお酒のことはおっしゃらないで。