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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
08 一九四一年(昭和十六年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 230,599 字 · 458 页
さて、国府津へついたら、バスがこの頃はダイヤめちゃめちゃで一時間、あの朝日という店で待ち合わせ。駅前のあのテーブルなんか並んでいた店覚えていらっしゃるでしょう? もうあんなことはしていないのよ、店はしまって、ちょいと梅干が並んでいるだけよ。
私は重いスーツケースを下げて太郎に片手つかまられて辿りついた時は吻っとして、でも、いい心持でした。
八時頃国男来。二日は太郎がはりきりで砂遊びにおやじさんをさそい出し、私はエプロンで片づけもの。
午後一休みして太郎を見たら、一人でぽつねんと芝の枯れたのを植木屋が焚火している、それをつっついています。可哀そうになって、駅で買った柿の袋下げて、ナイフもって、ミカン畑の間を歩きながらその柿をむいてたべさせてやりました。ミカンが黄色くなりかけで空は青々。白い蝶が二つ高く低くとび交っていて大変新鮮でした。狭いミカン畑の間の草道を日やけ色した手足を出した太郎が短い青いパンツで汽車を見ようとかけてゆくのも面白い眺めでした。
太郎は七時半ごろ、寿江子が駅まで来てつれてかえりました。明治節のお式に出なくてはいけないから。
あの仕事てつだって貰っている絵の娘さんがきのう午後から来て、昨夜は珍しい、国、そのひと、私、女中さんという顔ぶれでした。