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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
08 一九四一年(昭和十六年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 230,599 字 · 458 页
本をもって来たのによむどころかという有様よ。炭がない。野菜がない。海は朝も夜も目の前にとどろいているのにお魚はなしよ。大したものでしょう? お魚と云えば、この間うち市中に余りお魚がないので困りはてたとき、新しい首相は早朝騎馬で市場へ行かれました。魚がないじゃないか。ガソリンがないもんですから。ナニ、ガソリン? 早くおきて働けばいいんじゃ、と云われた由、そしてあんちゃん連の万歳におくられて馬蹄の音勇ましく朝の遠征を終えられた由です。こっちではそういう勇ましい光景もなくて魚はないのね。
すべて御持参で来れば、今頃から冬にかけては、いい心持だと思います。久しぶりでのんきな気分で空気のよさ感じます。あしたおめにかかると、日にやけたのが目につくのではないかしら。
きょうはゆっくり眠って、午後は三時間ほど裏の山の方と海辺とをぶらつきました。裏の山の南に向った日だまりには、きれいな薄紫の野菊や、しぶくてしゃれた赤の赤まんまの花や何というのか可愛い赤い筒形の花やらが咲いていて、なかなかたのしいぶらぶら歩きでした。すぐ下に二本線路があって、それが東海道本線なんですもの。