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ちじんのあい

痴人の愛

谷崎 潤一郎

「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页

青空文庫

喰い物の次に嵩んだのは西洋洗濯の代でした。これはナオミが足袋一足でも決して自分で洗おうとせず、汚れ物は総べてクリーニングに出したからです。そしてたまたま叱言を云えば、二た言目には、

「あたし女中じゃないことよ」

と云います。

「そんな、洗濯なんかすりゃあ、指が太くなっちゃって、ピアノが弾けなくなるじゃないの、譲治さんはあたしの事を何と云って? 自分の宝物だって云ったじゃないの? だのにこの手が太くなったらどうするのよ」

と、そう云います。

最初のうちこそナオミは家事向きの用をしてくれ、勝手元の方を働きもしましたが、それが続いたのはほんの一年か半年ぐらいだったでしょう。ですから洗濯物などはまだいいとして、何より困ったのは家の中が日増しに乱雑に、不潔になって行くことでした。脱いだものは脱ぎッ放し、喰べた物は喰べッ放しと云う有様で、喰い荒した皿小鉢だの、飲みかけの茶碗や湯呑みだの、垢じみた肌着や湯文字だのが、いつ行って見てもそこらに放り出してある。床は勿論椅子でもテーブルでも埃が溜っていないことはなく、あの折角の印度更紗の窓かけも最早や昔日の俤を止めず煤けてしまい、あんなに晴れやかな「小鳥の籠」