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ちじんのあい

痴人の愛

谷崎 潤一郎

「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页

青空文庫

「ヘッ、そんな景気のいいんじゃねえんだ。あんまり暑くって仕様がねえから、ちょっと日帰りでやって来たのよ」

ナオミと彼とがしゃべっている所へ、やがて浜田が上って来ました。

「やあ、暫く! 大へん御無沙汰しちまって、―――どうです河合さん、近頃さっぱりダンスにお見えになりませんね」

「そう云う訳でもないんですが、ナオミが飽きたと云うもんだから」

「そうですか、そりゃ怪しからんな。―――あなた方はいつから此方へ?」

「つい二三日前からですよ、長谷の植木屋の離れ座敷を借りているんです」

「そりゃほんとにいい所よ、杉崎先生のお世話でもって今月一杯の約束で借りたの」

「乙う洒落てるね」

と、熊谷が云いました。

「じゃ、当分此処に居るんですか」

と浜田は云って、

「だけど鎌倉にもダンスはありますよ。今夜も実は海浜ホテルにあるんだけれど、相手があれば行きたいところなんだがなア」

「いやだわ、あたし」

と、ナオミはにべもなく云いました。

「この暑いのにダンスなんか禁物だわ、又そのうちに涼しくなったら出かけるわよ」

「それもそうだね、ダンスは夏のものじゃないね」

そう云って浜田は、つかぬ様子でモジモジしながら、