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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

秋の朝の冷たい空気が彼の頭をさわやかにした。

「何時であろうか?」

上体を起した彼は枕もとに置いてあったたもと時計を取りあげて見おろした。

「そうだ、阿賀妻どのを呼んでおくがよい」と彼はそのことと連絡あるかのように云いつづけた。そして、着衣に手を貸すために起って近づく小間使を、「よい、よい――」と去らすのであった、

「身どもは馴れておる、馴れておる」

彼は手をついて立ちあがった。みだれ籠の前に立って、博多の帯のはじを取ると、さらりと流して傍らの衣桁にかけた。

奥座敷にはすでに家臣がつめかけていた。聞きつたえたものがご機嫌うかがいに早くから伺候していた。取るものも取りあえず駈けつけて来た恰好であった。なお続々とお目見えにやって来るであろう。主は今日のため、留守居の重役である神山外記の考慮をわずらわしていた。やがてこうして集まった家臣と共に、久濶を叙し、一席を設けて献酬しつつお互いの心情を語りあわねばならぬのであった。むろんこの企ては当然のこととしてあの外記にも理解されている。しかしこの気持は外記には通じてはいないにちがいない。

もとの主君のご来着は、一夜のうちに城下の隅々まで知れ渡った。