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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
そう呟いた阿賀妻は、これで「蓑笠」の二字が生きて来たと闇のなかにひとり微笑した。
路は城下の裏側にぬけて、段々畑を幾枚か下にくだり田圃のなかに通じて行った。こんもりまッ黒く盛りあがった木立のなかに、石垣に囲まれた大きな家があった。一本の乾いた路は灰色に浮んで、黙々たる彼らをその家に導いている。刈り株だけ残った田圃の幾つかには、秋の水がみなぎっていた。夜空をうつして、斜めに白く光るのであった。
ここまで来れば、路ばたは、気になる物はなにも無かった。
「冷えてまいりましたな」と大沼がうしろから声をかけた、「あちらでは、そろそろ雪になる頃かと思われますな」
阿賀妻はぽつんと云った。
「そうでしょう」
取りつく島も無いのだ。
足をはやめた甚助が声だかく外から叫んだ。屋敷うちに通じて、待ちかまえていたようにがらがらと表戸はあけられた。
「お帰りなさいませ」そう云って、駈けだして来た嫂はすでに吐息まじりであった。
「お待ちいたしてございます」
「ようこそ、ようこそ――」と、妻の兄は両手をひろげて迎えた。これが、急いで百姓になろうとしている都築泰亮である。
「ご隠居は?」