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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

第二章

一

ながい間水に浸されてかちかちになり、時を得て猛然と暴れだしたかのようであった。

川は、どーと当ってがっと渦巻く淵に向って近づいた。丸木舟は右か左に避けねばならなかった。もはや操縦は神の意志であった。考えているひまはなかった。立ちあがった二つの人間が、櫂と棹を鞭のようにひらめかした。しぶきが彼らを包んでときどき見えなくした。扁舟と云うよりもまだ危げであった。大きな波のうねりが姿をかき消し突きあげた。対岸へ対岸へ――と、それでも身もだえする。はためく大きな布の上を、秋の羽虫のよろめくに似ている。

飛沫をあげて流れる巨木が、おもい重量と、いきおいづいた加速度でまっ直ぐに奔っていた。偶然がその舟と衝突させたのであろう――しぶきがちらちらと見え、ふいに何もかも消えてしまった。

ごうごうと底鳴りをしている川に、濁流は漫々としてあふれている。

第二章

一

草鞋の踵を踏みしめて、妻のわたす脇差を腰におとした。袴の腿立ちを取ると、用意はすっかり出来たのである。一件書類その他、さしあたり必要なものを小さな荷に振り分けて肩にかけ、

「それでは――」と云った。

伏目がちの妻は韮山笠を差しだしていた。