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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

ホテルの前の大きい普請場の入口を、いま一台の重い荷馬車が入りかけているところだった。歩哨の兵士のきているのによく似た裏毛の防寒外套の胸をはだけたまま、不精ひげの生えた頬っぺたの両側に防寒帽のたれをばたつかせたまま、馬子は、

「ダワイ! ダワイ! ダワイ!」

と太い声で馬をはげまし、轅のところへ手をそえて自分も全身の力を出しながら、傾斜した渡板のむこうへ馬をわたらした。ダワイということばは、呉れ、という意味だとならった。馬子は、いかにも元気の出そうな調子でダワイ、ダワイと叫んだけれど、それはどういう意味なのだろう。一足おくれていた伸子に、

「ぶこちゃん!」

素子が大きい声でよんだ。ホテルを出たばかりの街角に、三台橇が客待ちしていた。その一台に、素子がのりかけているところだった。日本風呂敷に包んだ大きい箱のようなものをわきにかかえた瀬川雅夫が、素子と並んでかけた。

「ぶこちゃん、前へ立つんだよ」

「どこへ?」

「ここへ――十分立てますよ」

瀬川雅夫が防寒上靴をはいた足をひっこめながら云った。

「ほんの六七分のところだから大丈夫ですよ。却って面白いじゃないですか。……ほら、こうして」